【承継事例】後継者のいないカリスマ
(情報保護の観点で一部脚色しています)
【登場人物】
太郎社長
よく「名選手は名監督とは限らない」という話があるが「名選手であり名監督だからこそ、その次を担う者がいない」という悩みもある。
業界内でも確かな地位を誇るA社は、太郎社長がカリスマ的に一代で築いた会社である。太郎社長は経営能力にも優れ、コロナ禍の厳しい環境においても迅速な対応策により窮地を乗り越え、持ち前の”人たらし”で業界内に限らず、金融機関とも良好な関係を築いてきた。
そんな非の打ち所がない太郎社長にも悩みがあった。後継者がいないのである。ご子息はいるがまだ幼く、特に継承するつもりもなかった。私は太郎社長に失礼を承知で伺う。
「M&Aで売却されるお気持ちもあるのですか?」
正直、M&Aというとビジネス感が急に強まり、事業承継という極めてセンシティブな話題においては切れ味が鋭すぎる。ただ、私には太郎社長がぼんやりとその道を考え始めているように見えた。
太郎社長にはこれまでも幾度となくM&Aの話が四方八方から届いてきた。現役バリバリだった太郎社長には何の興味もなかった。しかし、太郎社長も還暦を迎え、自身と会社の今後を考え始めていた。考えれば考える程、自分の代わりが社内にも身内にもいないことがご自身の中で明確になってきていたのだ。
現在、太郎社長は将来的な売却を視野に入れ、改めて内部の人材育成にも目を向けている。
人は、時間の経過とともに考えが変わるものだ。少し前まで「あり得ない」と思っていたことが「あり得る」に変わることはごく自然なことだ。そう考えれば考える程、事業承継というのは重要且つ長期的な目線で考えなければならない問題であると感じる。
合同会社フクノネ
代表 和久津 亮
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